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書店でいま人気カテゴリーとなっているのが「セミリタイア」に関連した書籍 である。セミリタイアについての正確な定義は定かではないが、何らかの経済活 動を通して安定収入を確保しながら悠々自適の暮らしを実現させることを表して いるようだ。
負け組とは侮れないネオニートの「雇われない生き方」の知恵(1) ──────────────────────────────────── 「金持ち父さん貧乏父さん」の著者であるロバート・キヨサキ氏が 考案した「キャッシュフロー」というボードゲームが巷では人気だが、このゲー ムの主旨は、給料のために懸命に働く人の生活を“ラットレース(ねずみの競争 )”と表し、最初は各プレーヤがラットレースを回りながらも、株や不動産事業への投資活動による不労所得を増やして給与所得に依存しない感覚を身 につけさせようとするものだ。 給料のために懸命に働く生活を軽視するわけではないにしても、勤務先の会社か ら支払われる給与収入というものが、現代では非常に危うい存在になっているこ とは事実だろう。月々の生活費を“給与”のみに頼ることは職を失った時や、高 齢になるほど自分の体力(労働力)が落ちてゆくことを考えればリスクが大きい 。 自分の人生を平均寿命まで全うしようとすれば、会社から支給される給料のみ に依存した生活には大きな不安がある。 その一方で、近頃では「職に就くこと」を拒否する「ニート」と呼ばれる若者が 増えている。学生でもないし職にも就いていないニートの数は、現在で87万人に も達している。 これは15~34歳人口の 2.7%に相当する規模で、政府もニート対 策事業として彼らに対する職業訓練や就職支援サービスに予算を組み始めた。た だしその支援策が、彼らの「なぜ働かないか」という本質を突いているかは疑問 だ。 一見して「セミリタイア」と「ニート」は対極にある人種と捉えがちだが、本質 的には「これまでのような会社や組織を拠り所とて生きたくない」という共通し た価値観を持っている。終身雇用の時代が崩れて、会社に依存しない生き方が求 められる世の中では、ニートとなる若者が登場してくるのも必然といえるのかも しれない。 現代では、ニートに限らず、雇われて生計を立てるといういわば社会 人の“本道”から一見外れているようにみえる新しいライフスタイルが続々と生 まれている。 【市民権を得る新たなライフスタイル】 「セミリタイア」や「スローライフ」を実現させることが“理想的な生き方” として賞賛されるのと同様に、「フリーター」や「オタク」も最近では正当なラ イフスタイルとして認知されるようになった。 いまではフリーターの労働力が企 業の業績に大きく貢献しているし、オタク人材を積極的に登用する会社がヒット 商品を生み出している例も数多い。検索サービス大手のグーグルでも、優秀な才 能を発掘するためにオタク人材の採用には前向きだ。 グーグルでは、未知の新分野を切り開ける能力を持った人材を発掘、採用するこ とを目的として、独自の適性テスト(Google Labs Aptitude Test)を昨年実施し たが、その内容はかなりマニアックなものであることが話題を呼んだ。テスト問 題は「WWWDOT--Google=ドットコムの方程式を解け」という工学的に難解なもの や、「検索のトラフィック量の季節性を予測する方法を俳句で書け」「UNIXと一 緒に壊れているものは?」といった、相当の専門知識と独自のセンスを問うもの になっている。 これはグーグルが求める人材として、正規のレール(有名な大学の学位がある等 )を歩んだ者だけではなく、独特の視点やこだわりを持って能力を身に付けた型 破りの人間にも逸材が多いことを示している。 《オタク人材に着目する米国IT業界》 米国やカナダでは、コンピュータオタク(パソコンマニア)がITサポート業 を営んでいるケースが目立つが、それらを含めて「Hire Nerd」(オタクを雇うの 意味)という求人広告が目に付く。いまやIT分野に関しては、オタク(Nerd) は“プロフェッショナル”の代名詞となってきている。オタクをいかに自社の業 務に活用するか、つまりITアウトソーシング先としてオタク人材とどのように 付き合うかが注目されている。 この流れに乗って、パソコンオタクとして独立事業者になることを支援し、米国 や南米、欧州など世界での展開を図っている会社がある。ナーズ・オンサイトは 「出張オタク」と訳されるが、パソコンとそれに関する事が三度の飯よりも好き だというパソコンオタクに、好きなことで生計を立てられる手段を提供している 。 ■Nerds On Site http://www.nerdsonsite.com/ 同社は出張オタクをチームとして展開、そのメンバーを「アントレプレ“ナード ” EntrepreNERD(起業家のアントレプレナーとオタクのナードを組み合わせた造語 )」と名づけている。そこには、雇用したスタッフとしてではなく、オタクの一 人一人が起業家であるというコンセプトがある。 自分がパソコンオタクとして生計を立てたいと思う志願者は、グループミーテイ ングに参加してビジネスモデルについてのプレゼンを受け、チームメンバーと質 疑応答を行い、オンラインテスト、面談を経てアントレプレナードとして認定さ れる。各自には、ロゴがペインティングされたフォルクスワーゲン「ナードモー ビル(NerdMobile)」が支給され、これがアントレプレナードの“足”となり“ オフィス”となる。 サービス内容は、企業や個人向けの出張パソコン/システム のサポート。誰でもなれるというよりも、どれだけパソコンオタクであるか(深 い専門能力を持っているか)がその選定の際に問われるようだ。 各自が仕事を通じて得た知識やノウハウは、「ナードロジー大学 University of Nerdology」という形でプールされ、各アントレプレナード共有の知的資産として 彼らの仕事をバックアップするためにフィードバックされる。 各地のオタク同士 が連携(協力)しあうことによって、アントレプレナードは一人でも悩まずに仕 事ができるというわけだ。 この事業は、米国でパソコンオタクを自称する二人が始めたもの。アントレプレ ナードは雇用スタッフでもフランチャイジーでもなく、同社とパートナーシップ 契約を結ぶことになる。 オタク人材の特性を考えると、雇用主と社員、または本 部と支部といった従来とは異なるビジネスパートナーとしての関係作りをするこ とが肝といえる。オタクとしての特性を持つ人達は、雇われることよりも、個人 事業者として生きた方が才能を開花させやすいという考え方が、この事業の根底 にある。 【雇われることと稼ぐことの分離から生じた日本のニート層】 日本ではフリーターの増加に対する危機感が指摘されたばかりだが、まったく 労働に従事しないニートの存在が新たに急浮上してきた。 ニートは英国で生まれ た呼称で、職に就いていないばかりか正規の教育も受けていない若者層を意味し ている。 しかし日本では教育を受けていない例は極く少なく、能力はあるが働か ない人、自活できるだけの経済力を持たない人までを含める傾向にある。 一般的には「ニート=怠け者」ととらえられているが、実際にはその逆であるこ とも少なくない。自分のやりたいことを趣味に留めず、どんどん深めていったが それでは食えていないという人(たとえば、クラブDJとして専門の音楽分野に 精通してその関係の仕事もしているが自活できるだけの稼ぎに達していないとい うケース)、就職活動をしたが対人関係で折り合いがつかず就職試験に失敗した まま身動きがとれなくなってしまった人、就職したがサラリーマンが肌に合わな くて辞めてしまった人、就職という生き方に納得しないで自分探しをしている人 など、理由や背景事情はさまざまだ。 しかし彼らニートの本音を拾っていくと、英国のNEETとの違いが明らかになって くる。日本のニートの多くは、ただ働かないでいることに満足しているわけでは なく、就職以外で自力で収入を得る方法を模索している。 むしろかなり意欲的な 面もみられる。すべてのニート層に当てはまるわけではないが、学校を卒業して すぐにセミリタイアの方法を模索するような革新的な若者が多数存在しているこ とは注目に値する。そこには、「働く」ということと「稼ぐ」ということが等号 で結ばれていない感覚がある。彼らの中からは「働かない(雇われない)で収入 を得ること」を真剣に研究して、ネットによる不労所得だけで生計を立てるネオ ニート層(革新的なニート)が登場してきている。 ──────────────────────────────────── 負け組とは侮れないネオニートの「雇われない生き方」の知恵(2) ──────────────────────────────────── 【無収入状態を脱したネオニート層の収益モデル】 「働かないこと=無収入」という理由からニートは社会的に批判される立場に あるわけだが、自宅に引きこもりながらも月収100万円を稼いでいるニートが いるとすれば、その生き方(ライフスタイル)を世間は非難することができるだ ろうか。 むしろラットゲームの中で必死に働いているサラリーマンのほうが時代 遅れの考え方をしているのかもしれない、という大胆な仮説も立てられる。 社会との関係を閉ざしたニートでも、ネットさえあれば収入を得る手立ては存在 する。 それを裏付けるように国内のニート層におけるパソコン利用率は驚くほど 高いし、ネットを使いこなすスキルも相当に優れている。 彼らが定職に就かずに 収入を得る方法としては、まず自分のサイトを立ち上げてアフィリエイト収入を 得るというのが初歩的な段階。 アフィリエイトでもやり方次第では月に20~30万 円を稼ぐことが可能だ。 またネットオークションを活用した中古品の転売ビジネスも彼らの中では流行っ ている。その仕組みは2005/2/2号でも紹介したが、オークションでプレミアム価 格が付いている商品をあらかじめ調べておき、地方のリサイクルショップなどを 巡回して、プレミアム無しの中古価格で購入してネットで転売することによって 差益を稼ぐというものだ。 《個人が中古品を転売するサイドビジネスの仕組み》 人気の中古品は 両者間で取引値によって生ずる ┌─────────┐ ┌───────── 彼らの具体的な売買手法はそれぞれ異なるものの、一往復の売買で1~ 2%程度の差益が稼げることを目標としている。 値動きの良い銘柄なら一日で3 %前後の変動があるため、その波に上手に乗ることで前場で買い、後場で売るこ とで利益を確定することも不可能ではない。それを毎日何銘柄も繰り返すことで 資産を少しずつ増やしていく。例えば、300万円の資金をデイトレードで 1.5 %増やせば4万5千円の収益となる。 オンライントレードが普及する以前は、投資環境や手数料率の都合から個人がプ ロ・トレーダーのような売買をすることが難しかったが、現在それが自宅からで も簡単に実行できる。 デイトレーダーの絶対数が増えてくれば、その中で何人か のカリスマ的な成功者も登場してくるわけで、彼らをお手本とした「働かずにデ イトレードで稼ぐ」というライフスタイルが形成されていく。 これらの収益モデルはあくまで理想的な展開を示したもので、それを真似すれば すべてのニートが自活できるわけではないにしても、「働かずに稼ぐ」ための方 法を独自に開拓していく姿勢には、給与所得者にはないたくましさをを感じる一 面もある。 【ニートから派生する情報起業のスタイル】 ニートといえども収入を得る術を身につければ、それは個人事業者や個人投資 家と変わりがない。 そうなってくると「ニート」が是か非かという社会的な議論 は的はずれなものになってしまう。 いま国内で80万人以上いるニート層の中から 、やがては自らのライフスタイルを貫きながら“成功者”となる者が現われても 不思議はない。 その前兆として捉えておきたいのが、ニート層から派生している情報起業のスタ イルだ。 先に紹介した、アフィリエイトやオークションで稼ぐための具体例は、 それを実行するだけで永続的に稼ぎ続けられるものではない。そこで自ら開拓し た“稼ぐノウハウ”を情報商材として他人に販売することが流行りはじめている 。 例えば「誰でもできるアフィリエイトで月収100万円の稼ぎ方」といった類 のレポートを簡素な小冊子やPDFファイルなどの形式で販売するものだ。 レポートの価格は1万5千円前後の設定であることが多い。 1万5千円で2百部 売れたとすれば300万円の収入になる。 パソコンから原稿をプリントアウトし た小冊子ならレポートの製作原価はほとんどかからないことから、売上の大半は 自分の儲けになる。 1万5千円という価格設定は、一般のユーザーが「騙されて もいいから買ってみようか」という気持ちにさせる上限の金額と合致する。 ただしレポート化されて多くの購入者に知れ渡った後の“ノウハウ”は、同じ方 法で稼ごうとする競合者が急速に増えて、その価値を失っていくことになる。レ ポートの販売者はその辺りを熟知していて、自らは一つの“稼ぐ方法”に固執す ることなく、また新たなノウハウの開拓に目を向けはじめる。それほど稼ぐこと に対して貪欲な探求心がないと情報起業家として生き続けることはできない。 情 報商材の難しいところは、初回は顧客が期待して1万5千円のレポートを購入し たとしても、その中身が期待はずれの内容であれば、二度とその販売者から新た なレポートを買うことはないという点だ。 しかし「働かずに稼げる」ことをテー マとした情報商材を購入してみようと考える潜在的な顧客数は想像以上に多いよ うだ。 ┌─────────────────┐稼げる手法┌→[アフィリエイト] ※○=手軽な副業を希望する一般ユーザー このような流れからみると、セミリタイアといういわば勝ち組的な生き方と、社 会的には負け組と捉えられがちなニートとの間の接点が生まれていることに気付 く。IT企業の創業者が株式公開で財を成してセミリタイアするのと、ネオニー トの中からデイトレードや情報起業の成功者が生まれることとは本質的に共通し ている。いずれも「雇われない生き方」にこだわり、独自の収入源を確立しよう とするものだ。もちろんすべてのニートが肯定できるものではないが、世の中の 仕組みが雪崩的に変化している現代では、このような価値観を持つ人達が登場し てくるのも必然といえるのかもしれない。ホームレスから大金持ちへのサクセス ストーリーがよく聞かれるように、ニート層から将来の事業家が生まれてくる可 能性も大いにあり得る。 |
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